こんにちは、メノーです。
研修医の皆さんは、救急外来でこと『患者さんを帰宅させる』という段階になった時、不安を覚える事が多いのではないのでしょうか。
...不安すぎて検査をしまくってしまったりしてないですか?
僕もしまくっていた時期がありました(笑)
しかし、実はあんまり闇雲に検査をしても、気持ち的には良くても実際にはその不安は解消されていない事の方が多いかもしれません。
実際の現場では診断が確定する事はそれほど多くなく、診断がつかず患者さんを経過観察として帰宅させるのが多いのが現状です。
研修医など、経験の少ない医師にとって(勿論経験豊富な医師にとってもより実感するべき事実だと思うのですが)、具体的な『データ』を拠り所にしていく必要があります。
例えば、経験豊富なベテランの先生に自分の家族が、『今までAの疾患が多かったし、なんとなくAっぽいしAでいいでしょ!!』とかいう診断をされたら不安になりませんか?(笑)
経験を積んでいく事のデメリットとしては不必要な先入観が形成されていくので、しっかりとしたデータに立ち返ることは年次を経てより一層必要な概念になってきます。
ではそんな『数学的』に診断する方法などあるのでしょうか?
....実は、あるんです。
精密ではありませんが、所見によってある程度、特定の疾患の確率を推定する方法があるのです。
その方に関して後述していきます。
まずは、『3つ』の単語を覚えよう!
突然ですが大学の授業で『検査前確率』、『尤度比』、『検査後確率』なんて単語を統計学の授業で習ったのを覚えていますか?
もう忘却の彼方という人もいるかもしれませんね。
実はこの3つの単語を理解し、利用できるようになれば研修医の先生が思っている以上に、ロジカルに診察ができるようになるのです。
あまり細かく説明して嫌いになられたくないので(笑) 簡単に説明しますね。
検査前確率・・・検査する前の確率 尤度比・・・その疾患『ぽさ』を数値化したもの 検査後確率・・・検査した後の確率 |
尤度比がややわかりにくいと思いますが、要するに『A』という疾患に対して尤度比の高い所見があればあるほど『A』である可能性が上がる、と思っておいて下さい。
自分は実際にこの方法で診療をしている光景に出会った時は愕然としました。
診察においてなんとなく感覚的になってしまっていた部分をここまで数値化して考察する事ができるとは思ってもみませんでした。
ではその具体的な方法について、とってもシンプルなので、早速説明してしまおうと思います。
具体的な手法についての説明
ある患者さんに対して、『A』という疾患を疑ったとしましょう。
その際に踏むべき3ステップが、下記のものになります。
①検査前確率を推定する ②『A』に関する所見と、その尤度比を確認する ③『ノモグラム』に当てはめて検査後確率を算出する |
①ざっくりとした『検査前確率』を出す!
まず①から説明していきます。
①に関して最も重要なポイントなのですが、『検査前確率』というのはざっくりで構いません。
『そこ適当でいいの?』と思う方もいるかもしれません。
確かに検査前確率の設定の仕方がやや感覚的な事が正確性を下げる原因にはなっています。
しかし、『その土地土地の病院での、ある時期の』検査前確率を導出するのは容易な事ではありませんので、この点に関してはどうしてもざっくりになってしまうのが現状なのです。
ただざっくりというとさすがに雑すぎるのである程度ルールは決めています。
まず検査前確率を『レア、ノーマル、コモン』に分ける事でだいたいの確率を予測しましょう。
自分は、
レア⇒1%
ノーマル⇒5%
コモン⇒10%
てな感じでやっていますが、このあたりは各自の匙加減に頼らざるを得ない所です。
例えば、自分の病院では、腹痛できた20-50代の患者さんの虫垂炎の可能性に関してですが、
『虫垂炎はよくみるなあ~』と感覚的に認識しているので『コモン』として検査前確率10%で設定して考えています。
このように、まずは検査前確率を、感覚頼りにはなりますが設定してみましょう。
②尤度比を調べる
検査前確率を設定したら、次は尤度比を調べましょう。
各疾患に関しての所見の尤度比を覚えられる頭のおかしい人もいますが(笑)、大半の人は無理なので、本で調べるかスマホに内蔵しておきましょう。
具体的な例に関して後述するので、そこで尤度比の使い方の雰囲気を掴んで下さい。
ちなみに尤度比に関してよく記載された本はこちらの記事で紹介してあります。
医者本|身体所見、おすすめ本これだけ2選!
③『ノモグラム』を使って、疾患の可能性をどんどんあげていくのが楽しい!!
では検査前確率を推定し、尤度比を調べたら、いよいよ『検査後確率』を算出してみましょう!!!
確率を用いた手法では『ノモグラム』というグラフを使います。
googleで検索したら画像が出ると思います。
左に『検査前確率』、中央に所見の『尤度比』をあてはめることでその所見があった時のいわゆる『検査後確率』を出す事ができます!!!
めちゃめちゃ簡単じゃないですか???
実際の現場で毎回このノモグラムを利用している人は少ないでしょうが、時々普段の診療においてこの手法を使って計算してみると、数値的感覚が身につくようになるかと思います。
『数学的診断法』使用の具体例~インフルエンザ~
例えば、12月に、ガンガンにインフルエンザが流行って救急外来に患者さんが長蛇の列を作っている光景を想像して下さい。
そんな時にもこの手法は効果を発揮します。
まず『検査前確率』の設定ですが、インフルエンザ流行中なので『コモン』とします。『10%』と設定しましょう。
次は『尤度比』を用いてインフルエンザの可能性について数値化してみましょう。
この場合患者さんが発熱しており、咳を伴っています。また倦怠感と悪寒を感じている、と仮定します。
インフルエンザ診療においては、まず『発熱+咳』で陽性尤度比は 5.4 です。
この数値をノモグラムに当てはめるとインフルエンザの可能性は40%という事になります。
流行期は熱と咳があるだけで40%インフルエンザの可能性があるという事になりますね。
更に、『倦怠感』の尤度比は 2.4であり、こちらをノモグラムに加算すると 60%になります。既に50%を超えてしまいました。
最後に『悪寒 』の尤度比は2.6でありこちらをノモグラムに加算すると 、インフルエンザの可能性はこの段階で80%という事になりました。
この段階で、ぬぐい液検査を行う事なく、インフルエンザの可能性が80%という事になりました。
...この手法の有用性がおわかりいただけるでしょうか?(笑)
ここまでは、より『確定診断』に近づく為の『陽性』尤度比を使ってみました。
では『除外診断』に使用する『陰性』尤度比も同時に使ってみます。
この人がインフルエンザのぬぐい液検査が陰性だった場合、『陰性』尤度比 は 0.5とされています。この数値をノモグラムに当てはめてみると、70%という結果になります。
要するに、ぬぐい液の結果に関わらず、症状だけでこの患者さんはインフルエンザの可能性がかなり高いだろう、という解釈ができると思います。
(※ぬぐい液の検査結果の信頼度が発熱してからの経過時間に影響している事など、説明をわかりやすくするために省いている部分もありますのでご了承下さい。)
『数学的診断』に関するおススメ本
いかかでしたか?
数字を使って検査後の確率を算出する事で、救急外来での仕事を安心感を持ってできるようになると思いませんか?
今回はとってもコンパクトに説明しましたが、この統計学とノモグラムを使った手法を最もわかりやすく説明した本を1冊紹介して終わりにしようと思います。
『病歴と身体所見の診断学』という本です。
こちらの本では数々の具体例を織り交ぜて、より詳細に今回紹介した『数学的診断』の説明がなされていますので、是非一度読んでみて下さいね。
httpss://books.rakuten.co.jp/rb/15241213/?l-id=search-c-item-text-03